美味しそうな焼き色が老化の原因
AGEを世界で初めて発見したのは、フランスの科学者で物理学者でもあったルイ・カミーユ・メラールという人です。1912年のことでした。
タンパク質は、20種類のアミノ酸で構成されています。メラールは、このアミノ酸と糖質を一緒に加熱すると褐色になることを発見しました。メラールを英語読みにすると「メイラード」になりますから、世界的にはこの反応を、「メイラード反応」とよんでいます。
パンケーキ、食パン、焼きおにぎり、お好み焼き、タコ焼き・・・。タンパク質と糖質を含む食材を加熱すると褐色になりますが、これらはすべてメイラード反応によるもので、AGEが大量に発生します。タマネギを炒めるとキツネ色になるのもメイラード反応であり、これもAGEが大量に発生します。
メイラード反応は、タンパク質と糖質を同時に加熱することで起こります。プリンのカラメルのように糖質だけを加熱しても、AGEは生じません。
AGEが生まれるプロセスは大変複雑ですが、大まかには「初期段階(アーリー・ステージ)」と「後期段階(アドバンスト・ステージ)」に分けられます。
初期段階では、ブドウ糖がタンパク質(アミノ酸)の分子にくっついて、「シッフ塩基」という物質をつくります。シッフ塩基は構造的に不安定ですが、その一部は「アマドリ化合物」という安定した構造に変わります。ここまでが初期段階です。
続く後期段階では、アマドリ化合物が、複雑な反応を経て最終的にはAGEになります。AGEは、タンパク質と糖質から最終的に生まれる物質の総称です。適量的には、「カルボキシメチルリジン(CML)」「ペントシジン」「クロスリン」など100種類以上あると考えられています。
AGEが生まれる一連の反応は、一方通行。終末糖化産物という日本語からもイメージできるように、一度生まれたAGEが元のタンパク質と糖質に戻ることは決してありません。
AGEがタンパク質に悪影響を及ぼす
AGEが恐ろしいのは、私たちのカラダをつくっているタンパク質を攻撃し、その機能を低下させる働きがあることです
私たちのカラダをつくるタンパク質は、「分解」と「合成」を繰り返す新陳代謝でつねに入れ替えられています。金属を使い続けると疲労を起こして強度が低下するように、同じタンパク質を使い続けると強度が低下します。それを未然に防ぐため、定期的に入れ替える仕組みがあるわけです。
タンパク質が分解されても、また元通りに合成できるのは、細胞内の細胞核に収められた「DNA(デオキシリボ核酸)」にタンパク質の設計図が入っているから。この設計図の集まりが、「遺伝子」です。
タンパク質は、たくさんのアミノ酸を一列に並べて折り畳んだつくりをしています。DNAが伝えるのは、タンパク質をつくるアミノ酸の種類とその順列。連続する3つの塩基で、1個のアミノ酸をコードしています。
こうして遺伝子の情報から設計図通りにタンパク質を合成することを「翻訳(トランスレーション)」といいます。
既製服の丈などを体型に合わせて補正して着るように、翻訳されたタンパク質は、それぞれの現場で必要に応じてカスタマイズされます。「修飾(モディフィケーション)」といいます。
ところが、修飾にはよい修飾と悪い修飾があります。通常のカスタマイズはよい修飾ですが、AGEはタンパク質に悪い修飾を施すのです。
よい修飾はタンパク質の機能を高めるために必要なプロセスですが、AGEによる悪い修飾はタンパク質の本来の働きを阻害します。それが積み重なることで私たちのカラダが老化するのです。
体内のタンパク質にたまるAGEは加齢とともに増えていきますが、これが老化を進めて寿命を縮める原因になっています。
AGEがコラーゲン線維を老化させる
AGEによる修飾には、いくつかの特徴があります。なかでも老化との関わりが深いのが、タンパク質への「架橋形成(クロスリンキング)」というものです。
前述のように私たちのカラダはタンパク質でできていますが、そこにAGEが結合すると老化を進めます。
体内のAGEの多くは、タンパク質同士に橋を架けるように存在しています。
AGEの害を受けやすいタンパク質の1つに「コラーゲン線維」があります。
コラーゲン線維は、体内にある全タンパク質のおよそ30%を占め、私たちの体型を保ったり、肌の弾力性や柔軟性といった機能性を保ったりする重要な役割を担っています。
コラーゲン線維を構成する3本のタンパク質の線維は、「生理的架橋」と呼ばれるものでつながっています。この生理的架橋はコラーゲン線維の弾力と張力(ハリ)を保つうえで大事な役割を果たしています。
タンパク質の翻訳後の修飾に、よい修飾と悪い修飾があったように、コラーゲン線維の架橋にも善玉と悪玉があります。
生理的架橋が善玉だとしたら、AGEによる架橋は悪玉。AGEがランダムにコラーゲン線維を結びつけると、必要な弾力と張力が得られなくなるのです。
古くなったコラーゲン線維は「コラゲナーゼ」という酵素で分解されて、新しいコラーゲン線維と置き換えられます。ところが、AGEによる悪玉架橋がつくられると、この酵素による分解が起こらなくなり、古くなって、機能が低下したコラーゲン線維がいつまでも居座り続けることになります。
活性酸素を処理する仕組みが体内にあるように、AGEを処理する仕組みも体内にあります。白血球の一種である「貪食細胞(マクロファージ)」が、AGEを食べてくれるのです。ところが、この仕組みが、AGEの害を広げる皮肉な結果をもたらしてしまいます。
マクロファージは、勢い余ってAGEと同時に、大切なコラーゲン線維の一部も食べてしまうのです。するとマクロファージは、損なわれたコラーゲン線維を修復するためにその増殖を促す因子(TGF-β)を放出します。そのためコラーゲン線維が過剰につくられてしまい、逆にその機能を損なうのです。
タンパク質は、種類によって新陳代謝のスピードが異なります。たとえば、血液で酸素を運んでいるヘモグロビンというタンパク質の寿命はおよそ120日ですが、コラーゲン線維は15年以上も体内に留まり続け、その間にAGEが蓄積してしまいます。
AGEが血管を老化させる
コラーゲン線維は皮膚を構成するタンパク質としてよく知られていますが、実は血管もコラーゲン繊維で出来ています。
アメリカの内科医ウィリアム・オスラー博士は、「人は血管とともに老いる」という言葉を残していますが、確かに血管は人体を健康に保つうえでもっとも大切な働きをしています。
血管が老いるとカラダも老いますが、実はその背後にもAGEが存在します。
全身は60兆個を超える細胞の集まりですが、血管がその1つひとつの細胞に必要な酸素と栄養素を送り届けています。万一血管が詰まって血液の流れが止まると、その血管が必要な酸素と栄養素を届けていた細胞はたちまち死んでしまいます。血管の老化現象としてとくに恐れられるのは、「動脈硬化」。心臓から血液を全身へ運ぶ動脈が硬く脆くなった状態で、それによって起こる一連の病気は「動脈硬化症」と総称されています。
動脈硬化の多くは、「アテローム(粥状)硬化」と呼ばれるタイプ。厚くなった動脈の内部に、アテロームという固まりが生じるのが特徴です。
AGEは2つの仕組みで、アテロームによる動脈硬化を進行させます。
動脈硬化の最初の引き金になるのは、血液中に増えすぎた悪玉コレステロールの血管への蓄積です。
血管に蓄積した悪玉コレステロールは、AGEによる悪玉修飾を受けます。
悪玉修飾を受けた悪玉コレステロールは、処理をするために出動したマクロファージに摂り込まれて「泡沫細胞」となります。この泡沫細胞がアテロームをつくったり、動脈の内側を厚くしたりするのです。これが第1の仕組みです。
もう1つ、AGEには血管に対する直接的な悪影響もあります。
血管の内側にある「血管内皮細胞」には、AGEをキャッチするアンテナ(受容体)があります。この受容体にAGEが結合すると、動脈硬化を進め炎症反応がおこります。
動脈硬化が進行し、アテロームという固まりが大きく成長したり、それが破裂して血管内に血の固まり(血栓)が生じたりすると、血管が詰まって血流がストップします。脳の血管が詰まると「脳梗塞」、心臓の「冠動脈」という血管が詰まると「心筋梗塞」を引き起こします。
糖尿病による合併症には、「高血糖メモリー」又は「メタボリックの烙印」という概念があります。過去のある時期に高血糖にさらされると、それが記憶としてカラダに残り、糖尿病の合併症を進めるという考えです。
その証拠となる実験が2005年、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(NEJM)」に掲載されました。
アメリカで1型糖尿病の患者さんを対象に行った大規模臨床実験「DCCT」では、通常のインスリン治療で血糖値を抑えた従来型治療群(ヘモグロビンAlc9.0%)と、より厳格に血糖コントロールを行った強化型治療群(ヘモグロビンAlc7.2%)に分けて平均6・5年間追跡調査しました。すると、強化型治療群では、腎症や網膜症が少ないことが分かりました。
その後、従来型治療群の治療を強化型治療に切り替えたところ、ヘモグロビンAlc約8%と、DCCTの強化型治療群と同じレベルに下がりました。ところが、10年後に両者で心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による相対死亡リスクを調べたところ、ずっと強化型治療をしていた群の死亡リスクのほうが約57%低いというおどろくべき結果でした。
この結果が示しているのは、高血糖の状態のときに形成された物質がカラダに残り、長期間蓄積を続けて心臓病や脳卒中の原因になっているということです。その物質こそがAGEなのです。
糖尿病対策は、早ければ早いほど効果があります。ずるずると後回しにしてその間にAGEが蓄積してしまうと、あとで血糖コントロールしても、高血糖の記憶により合併症などのリスクが高まる恐れがあります。
糖質管理をして血糖値を上げない生活を送り、血液検査などで糖尿病のマーカーの動向を定期的にチェックしていれば、内も外も老けないカラダを長く保つことができます。
AGEががんを生む
日本人の死因のうち、第2位は心筋梗塞などの心臓病、第3位は脳梗塞などの脳卒中。その黒幕は、これまで見てきたように動脈硬化を進めるAGEです。
そして、死因の第1位はがん。日本人の2人に1人は一生のうちに一度はがんになり、3人に1人はがんで亡くなっています。がんにもまたAGEが関わっています。がんの最初の一歩は、遺伝子の異変です。
体内では新陳代謝により、毎日およそ1兆個の細胞が死に、その代わり1兆個の細胞が新たに生まれています。前述のように、新たに生まれる細胞はDNAに書き込まれた設計図に従ってつくられますが、その際になんらかのトラブルで正確に情報がコピーされないと遺伝子の変異が起こり、がん細胞が生じます。実は、こうして毎日5000個から6000個のがん細胞が私たちの体内に生じているのです。
がん細胞の多くはカラダに備わった免疫によって除去されますが、加齢とともに免疫機能は低下します。なかには免疫の監視をすり抜けて成長するものも現れます。こうしてがん細胞が増殖し、0.5~1cmの大きさになって目視できるようになると、「がん」と呼ばれます。
AGEはコラーゲン線維のような組織レベルのみではなく、細胞レベルでも蓄積することがわかっています。そして、遺伝情報を伝えるDNAにAGEが蓄積すると、がんのきっかけとなります。
体にAGEが出来ると、DNAの修復や複製などに悪影響が起こり、それがコピーエラーによるがん細胞の発生を招いてしまうのです。
AGEは、がんの転移にも関係しています。
がんの転移とは、がん細胞が血液やリンパ液に乗って離れた場所に移動して、新たにがんを生じさせることです。同時多発的に転移が起こり、複数の臓器ががんに侵されると、治療もそれだけ難しくなり、死亡率を高めてしまいます。
がん細胞は遺伝子の異常で起こりますが、その転移には遺伝子以外の要因が関わっています。その1つは、がん細胞のまわりの環境です。
がん細胞のまわりは、「間質」で取り囲まれています。間質はがん細胞にさまざまな影響を与えており、がんの増殖や転移を抑えたり、逆に進めたりすることに関わっています。
これを「がん-間質相互作用」といいます。
2000年、大阪大学とアメリカ・コロンビア大学の共同チームは、ネズミを使った実験で、がん-間質相互作用とAGEのかかわりの一端を明らかにしました。
がん細胞の表面には、AGEと結合する「RAGE(AGE受容体)」というタンパク質の分子があります。これにタンパク質の一種が結合すると、間質にシグナルが伝えられて、がん細胞の転移が起こりやすいことがわかったのです。
AGEが骨の老化を加速させる
カラダの屋台骨となる骨も、加齢による影響を受けやすい部位です。
骨はコラーゲン線維がつくる土台に、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分が堅く結晶したもの。このミネラル成分(骨量)が減って骨の強度が下がり、骨折を起こしやすくなった状態が「骨粗鬆症」です。
日本では高齢の女性に骨粗鬆症患者がおよそ1100万人もいると推定されています。高齢の女性に骨粗鬆症患者が多いのは、「骨芽細胞」の活動を高める女性ホルモン(エストロゲン)が減るからです。また、骨粗鬆症を背景とした骨折や転倒は、高齢者が要介護・要支援になる原因の9%を占めています。
骨も他の組織と同じように新陳代謝をしていて、「破骨細胞」が骨を分解し、「骨芽細胞」が骨を合成する「骨代謝」を行っています。
骨の乾燥重量のおよそ半分はコラーゲン線維ですが、このコラーゲン線維にAGEができると骨の強度が低下するリスクが高まります。
前述のように、コラーゲン線維は3本の線維同士を結びつける善玉の架橋により、必要な強度を確保しています。しかし、コラーゲン線維にAGEがつくとランダムな悪玉の架橋が起こり、骨の強度が低下してしまうのです。
AGEは、骨代謝にも悪い影響を与えます。
骨をつくる骨芽細胞には、AGEをキャッチするアンテナ(AGE受容体, RAGE)があります。そのアンテナにAGEがくっついてしまうと、カルシウムなど骨芽細胞へのミネラル成分の沈着が阻害されるため、骨芽細胞による骨の合成スピードが下がってしまいます。一方で、AGEは骨を壊す破骨細胞の働きを促進します。
こうして骨の合成を分解が上まわることで、骨から大量のカルシウムなどが溶け出して骨の強度が下がり、骨粗鬆症になる可能性が高まるのです。
さらにAGEは、「変形性関節症」のリスクも高めます。
変形性関節症とは、ヒザや股関節といった関節を構成する軟骨や組織が変形して、慢性的な関節炎をともなう病気です。60歳以上の4人に1人がかかっている病気ですが、なかでもヒザ軟骨や半月版がすり減るなどの変形を起こす「変形性膝関節症」は、推定患者数700万人にも上ると考えられています。
変形性関節症の原因にも、関節内の軟骨などのコラーゲン線維にAGEが蓄積して、強度や柔軟性を低下させることがあります。コラーゲン線維の寿命は長いのですが、なかでも関節内の軟骨のコラーゲン線維の寿命は117年と飛びぬけて長寿です。
カラダの寿命よりも長命なヒザ軟骨のコラーゲン線維は、生まれてから一度も入れ替わらないので、生まれてから死ぬまでAGEが少しずつたまり続ける一方で、それが変形性関節症の引き金になるのです。
AGEがアルツハイマー病を進める
カラダの老化も恐いものですが、それ以上に恐ろしいのは脳の老化です。
脳の老化が引き起こす認知症の原因として世界的に注目されるのが、「アルツハイマー病」です。認知症の半分以上はアルツハイマー病によるもので、その患者数は年々増えています。これを「アルツハイマー型痴呆症」といいます。
遺伝子の変異によるアルツハイマー病(家族性アルツハイマー病)は全体の0.1%程度。大半は遺伝子的な変異によらない「弧発性アルツハイマー病」です。これには、生活習慣が少なからず影響しています。
脳は1000億個ともいわれる神経細胞の固まりです。アルツハイマー病には、正常な脳にも存在しているタンパク質が、「アミロイド」という細い線維をつくって神経細胞の外側に沈着するという特徴があります。アルツハイマー病脳組織病変部位(老人斑)それが集まって巨大な「アミロイド線維」をつくるとシミのように見えることから、「老人斑」と呼ばれます。
アルツハイマー病では、神経細胞内に2本のらせん状のタンパク質が蓄積する「神経原線維変化」が起こり、最終的には脳が萎縮する脳変性が起こります。
アルツハイマー病の詳しいメカニズムはいまだにわからないことが多いのですが、AGEとの関わりを示す状況証拠はいくつか出てきています。
たとえば、老人斑には、大量のAGEが含まれています。また、アルツハイマー病患者の脳から抽出された2本のらせん状タンパク質には糖化が見られるという報告もあります。
この他、神経性の難病であるパーキンソン病では、中脳に「レビー小体」という異物が発生しますが、ここにもAGEが多量にたまっています。
将来アルツハイマー病やパーキンソン病の発生メカニズムが解明されると、AGEとの関わりがもっとはっきりしてくるかもしれません。
AGEが白内障を進める
軟骨組織と同じように、生まれてから一度も入れ替わらないタンパク質がもう1つあります。それは眼球の水晶体を構成する「クリスタリン」です。
クリスタリンの異常によって起こる病気に「白内障」があります。白内障は、45歳以上になると患者が増えてくる病気です。水晶体は直径9mm、厚さ9mmほどの凸レンズ。タンパク質であるクリスタリンが整然と並び、光の乱反射を防いで透明性を確保しています。水晶体はよくカメラのレンズにたとえられますが、その水晶体が灰白色や茶褐色に濁り、クリアな視界が得られなくなるのが白内障です。進行してしまうと、失明の恐れもあります。
加齢とともに視力は低下するものですが、それに加えてモノがかすんで見えたり、ぼやけて見えたり、明るいところで見えづらくなったりしたら、白内障の前触れかもしれません。
白内障でいちばん多いのは加齢とともに増えてくる「加齢性白内障」ですが、その発生にもAGEが深く関わります。クリスタリンにAGEができると、クリスタリンの構造が変化して透明性が下がります。さらに、パンを焼くと褐色になるように、AGEには物体を褐色にする作用があるため、水晶体の濁りの原因にもなるのです。
クリスタリンは一生入れ替わらないので、AGEはたまる一方。少しずつ蓄積して透明性を蝕んでしまうのです。
クリスタリンにAGEが生じるのは、紫外線による酸化の影響。紫外線もAGEを増やす一因になるのです。
食品に含まれるある種のAGEには、直接的にがんを進行させる物質もあります。その1つが超悪玉AGEとも呼ぶべき「アクリルアミド」という物質です。この物質はアミノ酸の一種であるアスパラギンにおきるメーラード反応によって生じます。
アクリルアミドは、WHO(世界保健機関)の外部組織であるIARC(国際がん研究機関)によって、「ヒトに対する発がん性があると考えられる」という物質の1つに挙げられています。少し前までは、「ヒトに対する発がん性が疑われる」というグループにランクされていましたが、現在は「ヒトに対する発がん性がおそらくある」という、よりリスクが高いグループに"昇格"しました。
ちなみに同じグループには、紫外線やディーゼルエンジンの排出ガス、子宮頸がんとの関連も疑われる「ヒトパピローマウイルス」などがリストアップされています。
2007年、オランダで行われた疫学調査で、アクリルアミドの摂取量が多いと、発ガンリスクが高くなるという事実が初めて示されました。
55~69歳の女性6万2000人から無作為に抽出したおよそ2500人を約11年間追跡調査したところ、子宮内膜がん、卵巣がん、乳がんにかかる人が出てきました。
対象者を喫煙者と非喫煙者に分け、アクリルアミドの摂取量によって計4つのグループに分けて発ガンリスクを比較した結果、もっとも多い集団ではもっとも少ない集団と比べて子宮内膜がん、卵巣がんの発症例が約2倍になっていました。
ポテトチップスは非常に含有量が多い
最初アクリルアミドの害に対して公的に警鐘を鳴らした国は、スウェーデンです。
1998年、スウェーデン政府はストックホルム大学と食品中のアクリルアミドに関する共同研究をスタート。その結果、糖質を多く含むイモ類を焼いたり、揚げたりしたポテトチップスやフライドポテトで大量のアクリルアミドが生成されることを突き止めました。
さらに、ポテトチップスやフライドポテト以外にも、糖質を多く含む食材を高温調理した食品に広くアクリルアミドが含まれることが判明しました。
2002年4月、この事実がスウェーデン政府から発表されると、全世界で反響を呼びました。
イギリス、ノルウェー、スイス、カナダ、アメリカも独自に食品中のアクリルアミドを分析し、食品中のアクリルアミドの最小値と最大値(国立衛生研究所調べ)スウェーデンの発表が正しいことを確認。
日本でも厚生労働省が中心となり、アクリルアミドに関する本格的な調査をスタート。02年6月にスイスのジュネーブで開かれた国際会議に研究班を派遣しています。
そして05年になって、「食品中のアクリルアミド濃度を減らす努力を続けるべきである」と指摘。さらに10年には、「アクリルアミドの摂取量と体内濃度(暴露量)との関連性について、長期にわたって調査を続けることを推奨する」と発表しています。
はっきり白黒がついた段階ではありませんが、アンチエイジングの観点からは、アクリルアミドに限らず、AGEの摂取を控えるべきです。
食品中のアクリルアミドの最小値と最大値を挙げますので、参考にしてください。(Process-Induced Food Toxicants, Wiley社より)